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終末期だけではない、“子どもホスピス”

“深く生きる”―充実した生のひとときのために

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国立成育医療研究センターの医療型短期滞在施設「もみじの家」だけでなく、全国では重い病気や障害を抱えた子どもとその家族を受け入れる施設の建設・開設が相次いでいます。

こうした施設の思想は、英国で誕生した‟子どもホスピス”由来のものを継承していますが、一般的な(高齢者向けの)ホスピスが終末期の緩和ケアや「看取り」に重点を置くのに対し、‟子どもホスピス”は重い病気を持つ子ども本人だけでなく親、兄弟・姉妹など家族全員の支援を目的とするところに特徴があります。

世界初の‟子どもホスピス”ヘレン・ハウスは、1982年にイギリスのオックスフォードにオープンした世界で最初の小児ホスピスです。教会のシスターをしていたフランシス・ドミニカさんが、知り合いの親御さんから重い病気を抱えたヘレンという2歳の女の子を預かったことから、ヘレン・ハウスの歴史は始まりました。

ヘレンは、脳腫瘍だったそうです。フランシス・ドミニカさんは、ヘレンを修道院で預かり、母親に休息の機会を与えました。これがきっかけとなって同じような境遇の家族が集まり、イギリス国内から多くの寄付を集め、同様の施設がつくられていきました。

ヘレン・ハウスの思想“深く生きる”――イギリスだけでなく日本でも“深く生きる”というコンセプトを踏襲し、重い病気を持つ子どもと家族がその人らしい生活のできる場所を作ろうとする動きが出てきています。

生命の危機を救命医療で乗りこえた先にある、重い病気を持つ子どもと家族の生活とは

医療の進歩によって、その生活と家族のかたちは多様化しつつあります。それに合わせて、‟子どもホスピス”に向けられるニーズは大きく変わって来ているといえます。

かつては亡くなってしまっていたような難病の子どもの生存率が大きく改善されたものの、重い病気を持つ子どもと家族の生活は、生命の危機を救命医療で乗りこえた先にあります。

たとえば、寝たきりで手足を動かすことのできない子どものケアでは、吸引・体位変換を5~30分間隔、よくもって1時間(このケアは、深夜・早朝であっても24時間続きます)の間隔でしなければならず、体調が悪いと3~5分間隔で必要になります。夜間の「たん」吸引は通常1~2回ですが、子どもの体調によっては介護者は眠れないこともあり、こうした介護者の平均睡眠時間は5~6時間とされています。

退院した後も続く、家族の医療ケアの負担は、子どもの状態だけでなく地域によっても大きくことなります。それが何故かと言うと、一時的に子どもを預ける短期入所施設など、地域ごとに存在する社会資源の量と質とが異なるからなのです。小児を対象とした訪問看護ステーション(自宅まで医療者が来てケアを施してくれる)も多くあるとはいえず、身体障害者手帳・療育手帳の対象とならない人は、家庭で日常生活を過ごす上で困難であってもサービスや支援を受けづらい状況にあります。また、重い病気を持つ子どもは医療ケア(人工呼吸管理、中心静脈栄養など)を常時必要とするため、そうしたケアのできる施設が既存の教育機関・福祉機関にほとんどないのが現状です。学校で受け入れた場合も、医療ケアを要する場合には養育者の付き添いが必要と言われ、親の自由な時間が取れないこともあります。

全国的に見ても、医療ケアが必要な子どもの家族への支援は少なく、保育や教育も充分に受けられていないのが現状です。そして、親や兄弟・姉妹などの生活も大きく制限されてしまいます。そのため、子どもや家族は地域の中で孤立してしまうこともあります。

医療の安心を土台とする“子どもホスピス”に向けられるニーズ

子どもホスピス

ここに、医療型の短期滞在施設の存在意義があります。こうした施設のゲストとして来られる家族にとって、限られた時間を家族と一緒に過ごしたり、子どもを一時的に預かってもらい休息したりすることはとても大切なことです。子どもの自分らしいひとときのためには、重い病気を持つ子どもの生命の安全を支える医療ケアと、成長や発達を支える学び・遊びのひとときが必要です。そして、家族にとっては休息と くつろぎのひとときが必要です。

こうしたひとときのためには、終末期や「看取り」のための空間だけでなく、普段の生活の延長線上にある、いわば普段着の空間が必要になると考えれられます。そこでは、医療専門職の医療ケアによる安心という土台が不可欠です。

医療専門職の医療ケアと地域の方々の支援とが折り重なって、その人らしい生活を支えるような“子どもホスピス”の動きが、今後さらに広がっていくことを願っています。